植物キチナーゼの一次構造(アミノ酸配列),立体構造

 植物キチナーゼのタンパク質構造は主に遺伝子解析から明らかとなり,一次構造上種々のクラスに分類されています.初期には塩基性キチナーゼがクラスT,酸性キチナーゼがクラスUと考えられていましたが,構造情報が蓄積するにつれた塩基性,酸性は構造と関係ないことがわかりました.その後,アミノ酸配列のみではなく,立体構造情報を含めて再分類が行われ,糖質分解酵素のファミリー分類が提唱されました.現在立体構造的に大きく分けると2種類に分類されます.1つはファミリー19に分類される,Alpha and beta proteins (a+b) のクラスのLysozyme-like フォールドを有するクラス1,2,4キチナーゼなどです.もう一つはファミリー18に分類される,Alpha and beta proteins (a/b) のクラスのTIM beta/alpha-barrel フォールドを有するクラス3キチナーゼです.これらのキチナーゼ分子は1つの祖先型遺伝子の遺伝子重複および組換えによって進化してきたと考えられます.(下図)



               Araki, T. et al. J. Biol. Chem. 267, 19944-19947 (1992).

Lysozyme-like フォールドを有するタンパク質には他に次のような酵素が含まれます(ファミリーは異なります).

C-type lysozyme (17) 
Phage T4 lysozyme (1)
Lambda lysozyme (1) 
G-type lysozyme (2) 

Bacterial muramidase, catalytic domain (2) 
Chitosanase (2) 

これらの酵素はいずれもキチン分解関連酵素です.
一方,TIM beta/alpha-barrel フォールドを有する酵素は非常に多く,基質特異性も全く異なります.
最近,G型リゾチームと植物クラスUキチナーゼの立体構造が類似していることが明らかとなり,その構造と機能の関係に興味がもたれています.




植物キチナーゼ            東海大学農学部バイオサイエンス学科タンパク質化学研究室

 キチン・キトサン関連酵素の中で植物キチナーゼは植物が生産するPRタンパク質(Pathgenesis Related Protein)のひとつとして広く研究されている酵素です.この酵素は植物自体が基質となるキチンを含んでいないこと,病原菌の感染でキチナーゼ遺伝子が誘導されることなどから,植物の自己防御タンパク質と考えられています.したがって,この酵素を植物体中で増強させることができれば減農薬などにつながると期待されています.
植物キチナーゼの分離・精製

 植物からのキチナーゼの分離・精製では,植物中に含まれる粘性多糖が妨害になってうまくいかない場合があります.こういった場合は4級アンモニウムイオン系界面活性剤であるセチルピリジニウムクロライド(CPC)を用いて粘性多糖を除去すると容易に精製できます.
 Araki, T., Kuramoto, M. and Torikata, T. (1995) Purification of three acidic chitinases from yam aerial tuber. Application of quaternary ammonium ion detergent for the separation of yam chitinase from viscous tissue extract. Biosci. Biotech. Biochem., 59 (3), 430-434.

 非常に多くの粘性多糖を含むヤマノイモのムカゴからのキチナーゼの抽出の例を示します.

○抽出方法
 500gのヤマノイモのむかごを3倍量の0.1M酢酸緩衝液pH4でホモジナイズし,遠心分離で上清と沈殿に分離します.沈殿物はさらに同様の抽出操作を繰り返します.得られた上清は2%のCPC溶液を加えると酸性多糖類が大量にゴム状に沈殿してきます.一晩放置して多糖類を沈殿させたあと遠心分離すると粘性のない抽出液が調製できます.
 この抽出液は界面活性剤を含んでいますが,酵素活性,その後の分離操作には影響を及ぼしません.

○精製方法
 上記の方法で得られた抽出液は通常のイオン交換クロマトグラフィーで精製できます.すなわち,DEAEセルロファインA500を用いて,0.05Mトリス塩酸緩衝液pH8で0.3Mまでの食塩グラジエントで溶出すると粗酵素画分が得られます.これをさらにIEC-DEAEカラムを用いてHPLCによってリクロマトを行うことで均一なキチナーゼ標品を得ることができます.また,セファデックスによるゲルろ過でも精製可能です.