コラム

当研究室における研究によって明らかになった乳酸菌を機能性とその利用性についてコラム形式で簡単にご紹介します。また、実際の商品化の可能性について考察します。内容は随時更新していきたいと思います。

目次

乳酸菌を用いたヒスタミン食中毒の軽減(ex.ヒスタミン食中毒軽減「漬物」)

 大型の魚(マグロ、カジキ等)は水銀が生物濃縮されているため、妊婦は胎児への影響を考えた際、それらの魚を摂らないほうが良いと言われています。一方で、それら大型魚に多く含まれるDHAやEPA等の摂取は水銀の毒性を上回る有益な効果を発揮する可能性も指摘されています。

 私達の研究により乳酸菌には重金属を吸着する力があることが分かっています。特に水銀に対する吸着能が高いことから、水銀のデトックスに利用できると考えられます。

 また、玄米に多く含まれるカドミウムにも高い吸着性を示す乳酸菌もいることから、食事の際にヨーグルト等を一緒に取ることで、有害重金属を吸着し、効率的に体外へ排出することができると考えられます。

 リスク回避の考え方は様々ですが、例えば魚と一緒に摂る「妊婦用ヨーグルト」、玄米菜食者向けの「重金属排出ヨーグルト」など、「デトックスヨーグルト」を提案します。

乳酸菌を用いたヒスタミン食中毒の軽減(ex.ヒスタミン食中毒軽減「漬物」)

 ヒスタミン食中毒は、顔面発赤、かゆみ、蕁麻疹など、アレルギーのような症状を呈すことから、アレルギー様食中毒といわれています。一般にマグロ、カツオ、サバなどのヒスタミンを生成するヒスチジンというアミノ酸を多く含む赤身魚が原因となります。ヒスタミンの生成には細菌が関与しており、原因となる魚などの食品を常温に放置することで、細菌により遊離ヒスチジンからヒスタミンが生成されます。このヒスタミンは、熱に強いことから加熱調理しても分解されません。このようなヒスタミン汚染した魚などを食べることにより、ヒスタミン食中毒が発症します。発症事例では死亡者こそ出ていませんが、家庭での軽度のヒスタミン食中毒は非常に多いと考えられています。また稀に集団発症を引き起こし問題となっています。

 私達の研究によりヒスタミンに高い吸着性を示す乳酸菌を発見しました。乳酸菌Xは添加直後からヒスタミンに高い吸着性を示すこと、塩酸で激しく洗浄しても大部分が剥がれずに残っていることなどからヒスタミン食中毒の軽減に有効だと考えられます。最大吸着量などから魚100g(おおよそ可食部一尾)に対しヨーグルト100gを同時に摂取した場合、低濃度汚染であれば症状が出ないようにできる可能性があります。また、中程度の汚染であれば、例え食中毒を発症したとしてもその症状を緩和できる可能性が示されました。

 ヒスタミン食中毒はアレルギー症状と区別しにくいため、家庭で軽度のヒスタミン食中毒にかかった場合、アレルギーと勘違いし、以後魚を避けてしまうことが考えられますが、このような乳酸菌を含むヨーグルトを摂取しておけばそれらを回避できる可能性もあります。また、魚に合うよう付け合せとして「ぬか漬け」などに応用することもできると考えられます。よって、「ヒスタミン食中毒軽減漬物」を提案します。

食品を乳酸菌の培地として使うという発想

 乳酸菌は整腸作用、免疫賦活化作用、抗がん作用、アレルギー低減作用、病原菌やウイルスからの生体防御作用、抗酸化作用、デトックス作用、歯周病予防作用、口臭予防作用、抗肥満作用等々、数えきれないぐらいの多くの機能性を有しています。

 普段、研究室では菌だけを分離する必要があることから高価な既成の培地を用いて乳酸菌を培養していますが、食品としてそのまま使用する場合、何も高価な培地を使う必要はありません。ヨーグルトを作るとき、牛乳に乳用乳酸菌を入れて加温して作ります。逆の視点から見ると、「ヨーグルトを作っているのではなく、牛乳を使って菌を増やしている」という考え方もできます。ヨーグルトの場合、牛乳が培地となり機能性乳酸菌を増やしているわけです。

 乳酸菌は適切な栄養源と温度管理さえしっかりしていれば手軽に増やすことが出来ます。家庭で乳酸菌を増やし摂取する方法はいくつかありますが、簡単な2つをお教えします。

1.ヨーグルトメーカーで加温する。培地は牛乳や豆乳が使いやすいでしょう。但し、乳酸菌には牛乳では増えない菌も沢山いますので注意が必要です。いわゆるプロバイオティクスと呼ばれる乳酸菌は牛乳中では生育できない場合が多いです。豆乳の方が比較的固まりやすいと思います。
 加温すると菌は急速に増殖します。煮沸やアルコール等で適切に殺菌をし、雑菌汚染には十分に気をつけてください。変な味がしたら捨てたほうが無難です。

2.糠漬けを作る。糠が培地となり植物などに付着している乳酸菌を増やすことができます。これは特別な加温装置を必要としませんので家庭でも十分作ることが可能です。また、糠漬けは糠に含まれるビタミンやミネラル等も野菜に移行しますので野菜の栄養素が増加します。塩分の過剰摂取は注意が必要ですが、手軽に乳酸菌を摂取できる非常に優れた食品と言えるでしょう。

 その他、身近なところではキムチや味噌も乳酸菌が沢山います。こちらは手軽に手作りとはいかないかもしれませんが、是非手作りに挑戦してみてください。

副業するタンパク質

 近年、ムーンライティングタンパク質(Moonlighting protein)というものが注目されています。ムーンライティングとは直訳すると「月光」ですが、「月明かりの元、(こっそりと)仕事をする」ことから転じ、「副業」、「アルバイト」、「内職」などといった意味があります。ムーンライティングタンパク質とは、「副業をしているタンパク質」という意味になります。メインの仕事があり、さらに副業をしているということは、複数の機能性を持つ「多機能性タンパク質」ということになります。

 一体どういうことでしょうか?解糖系の酵素として知られているグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を例に説明します。
GAPDHは解糖系における重要な酵素として知られています。糖からエネルギーを得るための経路が解糖系です。GAPDHはあらゆる生命にとって非常に重要な役割りを果たしているわけです。ところが、このGAPDHは非常に働き者で多くの菌で細胞表層にも存在して、腸管付着因子、溶血促進因子、免疫応答、ストレス応答などの働きをしていることが明らかになってきています。また、人においては核内でタンパク質の発現調整をしていることが明らかにされています。このように本業とは異なる場所で異なる仕事をしているタンパク質をムーンライティングタンパク質と呼んでおり、GAPDH以外にも沢山のムーンライティングタンパク質が発見されています。

 副業というのは、あくまでも最初に知られていた機能性を本業として、後で分かった機能性を副業としているに過ぎません。本当はどちらも重要な仕事なのだと思います。原核生物である乳酸菌は少ない遺伝子情報の中、一つのタンパク質に複数の機能を持たせて効率的に生命活動を維持しているように思えます。生命の神秘を感じますね。当研究室では、GAPDHが乳酸菌の腸管付着因子としてムチンや血液型抗原に結合することを明らかにしています。その他にも色々な機能性があると考えられ、現在、どのようなムーンライティングタンパク質が菌体表層に存在していて、どのような機能を有しているのかを解析中です。これらの機能性が明らかになれば、将来的にはムーンライティングタンパク質を機能性マーカーとして使用できると考えています。例えばGAPDHに多機能性があるならば、GAPDHを多く菌体表層に発現している乳酸菌を使えばヨーグルトや発酵食品に応用でき、商品に付加価値を付けることが容易にできるようになると考えられます。このように基礎研究を応用に結びつけやすいのが乳酸菌の魅力です。

 乳酸菌研究の面白さは掘っても掘っても掘り尽くせないところにあります。菌株が違えば機能も違います。掘れば掘るほど色々と出てくるのです。その一つがこのムーンライティングタンパク質と言って良いでしょう。人間にもマルチタスクが求められている時代です。ムーンライティングタンパク質のように異なる場所で異なる能力を発揮して社会貢献していければと思います。

乳酸菌を用いた6次産業化の推進

 乳酸菌といえば、ヨーグルトやチーズ、それから腸内に存在するというイメージが強いと思いますが、実はもっと多くの場所で活躍しています。図1にどのようなところで乳酸菌が検出または利用されているかを記載しました。これは様々な場所で利用できるということを意味しており、応用性の広さとも言えます。実際に、様々な食品をミキサーにかけ、乳酸菌を添加すると発酵してくれるものも多く存在しています。このように当研究室では様々な青果物を乳酸菌で発酵させ新たな発酵食品の創出も試みています。これにより六次産業化に役立つ情報と機能性を解析することで付加価値を付けた乳酸菌を提供できると考えています。

 実際にいくつかの企業や農家と商品開発を行っており、大学で見出した機能性乳酸菌を使った商品が来年度にはいくつか発売予定です。

 こちらの記事も合わせてご覧ください。

図1.乳酸菌の利用と分布

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