主な研究テーマ

古来,人間は動植物,微生物および海洋生物が産生する物質を健康の維持,病気の治療に利用しています.また,それらに含まれる有効成分の科学的研究により,新しい医薬品が開発されています.一方,中国の漢方医学には薬物と食物の根源は同じであるという考え方から,食事療法を重視する“医食同源”という概念があります.さらに,最近では食品に含まれる生物活性物質が注目されており,食品による癌をはじめとする各種疾病の予防が研究されています.また近年,それらの食品成分を用いた多種多様の健康食品が開発されてきています.
このような背景から,当研究室では薬草,野菜および果物等に含まれる生物活性物質を純粋に分離後,それらの構造を化学反応および機器分析により決定し,さらに,それらの持つ生物活性を明らかにする研究を行っています.

サブテーマ


研究方法


まず,原料植物の全草,又は種子,根などの部位を細かく切断,あるいは粉末にした後,メチルアルコール等の溶媒を加え,抽出を行います. この操作で,原料植物からメチルアルコールへ植物成分が溶け出してきます. この抽出液を減圧下濃縮したものがエキスです. ここで,このエキスの生物活性試験を行います. 次に,強い活性を示したエキスから高速液体クロマトグラフィー等を用いた分離・精製操作を繰り返し行い,化合物を純粋にします. この純粋にした化合物の化学構造を化学反応ならび様々な機器分析を駆使し,決定します. 最後に,構造決定した化合物の生物活性試験を行うと共に,活性の強度と構造の関係(構造活性相関)を調べます.

■食用植物の成分研究

近年,食生活の変化に伴って糖尿病や高血圧,痛風,高脂血症等の生活習慣病,アレルギーならびにがん等の疾患が増加してきています.また,それらの疾患の予防あるいは病態の軽減のために,食品を活用するという社会的なニーズが高まってきています.そこで,食生活を通して人々の健康に貢献するための科学的エビデンスを得るために,食用植物の有する新たな三次機能を発見するとともに,その機能を分子レベルで解明することを目的に,野菜や果物の成分研究を行っています.下記の化合物は,トマト成熟果実から単離したステロイド配糖体です.



■ヒルガオ科植物の樹脂配糖体の研究

樹脂配糖体は,ケンゴ子等のヒルガオ科を起原とする瀉下生薬に特有の成分で,エーテル可溶性のヤラピンと不溶性のコンボルブリンの二つのタイプに大別されています.近年,ヤラピンに関しては単離,構造決定された例はありますが,コンボルブリンに関しては,未だ単離された例はありません.また近年,ヤラピンの生物活性に関する研究が行われるようになり,それらの有する抗菌,がん細胞増殖抑制,鎮静,血管弛緩,抗炎症ならびにイオノフォア活性等の生物機能が報告されてきています.そこで,樹脂配糖体をシーズとする医薬品開発のための基礎研究として,コンボルブリンをはじめとする新規樹脂配糖体を単離,構造決定するとともに,それらの有する様々な生物活性を明らかにする研究を行っています.下記の化合物は,ハマヒルガオ全草から単離したヤラピンのcalysolin XIVとケンゴ子(アサガオの種子)のコンボルブリン画分のindium(Ⅲ) chloride 処理成分として単離したPM-4の構造です.尚,calysolin XIVには抗ヘルペスウイルス(HSV-1)活性を見出しています.



■天然抗酸化物質の研究

人間は,呼吸により酸素を体内に取り込み食物を酸化燃焼させてエネルギーを得ています.この呼吸に利用される酸素は,三重項酸素と呼ばれます比較的安定な物質ですが,その数%は,紫外線,放射線,食細胞の活動等の生体内外で起こる出来事が関与して,反応性の高い活性酸素やフリーラジカルに変化します.近年,これらの活性酸素やフリーラジカルが,体内の脂質,タンパク質, DNA 等に傷害を与え,それが炎症,動脈硬化をはじめとします生活習慣病ならびに癌などの広範囲の疾患,さらには老化の原因の一つになることが明らかにされてきています.もちろん人間は,この活性酸素やフリーラジカルによる体の損傷を無防備に放置しているわけではありません.それらの損傷を防ぐシステムが体内には備わっています.例えばSODやカタラーゼ等を用いた抗酸化酵素がそれです.また,食品由来のビタミンC やビタミン E などの抗酸化物質も,活性酸素やフリーラジカルを消去してくれます.しかしながら,それらの抗酸化物質の消去能力の限界を越えた過剰な活性酸素やフリーラジカルが産生されますと先ほどの疾患が起こると考えられています.したがって,この過剰な活性酸素やフリーラジカルを,体外から取り入れる抗酸化物質で無毒化することが重要と考えられます.そこで,本研究では,新規天然抗酸化物質の発見を目的としています. 下記の化合物は、タイワンニンジンボクの果実の抗酸化成分として単離,構造決定したリグナンです.



■天然抗アレルギー物質の研究

現代人の5人に1人はアレルギーといわれています.特に,花粉症,気管支喘息,アトピー性皮膚炎等のI 型アレルギーに分類される患者数が多くなってきています.そこで、ハーブ類を起源とする抗I型アレルギー物質の探索を目的に研究を行っています.これまでに,香味料あるいは健胃の目的で利用されます茴香(ウイキョウの果実)ウイキョウから得た下記スチルベンのトリマーにヒアルロニダーゼ阻害活性試験(抗 I 型アレルギー薬開発のスクリーニング法の一つとして用いられる試験法です)で市販の抗アレルギー薬のdisodium chromoglycate (DSCG) と同程度の阻害活性を見出しています.


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